見つからない部品

 

ランスロットの装飾、カラーリングは完全にロイドの趣味だ。

白と金とは彼の愛する最も麗しき皇子殿下を象徴する色彩で、この組合せ以外はあり得ないと強弁に主張してその外装の細部に至るまで拘ってデザインした。

ロイドの執念の結晶はそれはもう素晴らしく優美で美しい金属質の芸術品として仕上がり、それの持ち主である第二皇子に相応しい様相であるのだが、遺憾なことにそれは完成品ではなかった。

最も重要なパーツであるデヴァイサーが欠如しているのだ。

かの超大な騎士を見上げ、ため息をついてその冷たい肌に頬摺りしてまた重い溜息をつく狂博士の姿は度々どころが常時であり、彼の醜声を一層の物とした。

しかし彼がそんな評判如きを気にするような殊勝な人物であるはずもない。今日も今日とて最愛のナイトメアに懐いて悄然としているロイドを生温く遠巻きに見守っていたスタッフらは高貴な方の前触れ無しの突然の御出に腰をぬかさんばかりに驚いた。

いやそれはもう、己等が指揮系統としては第二皇子直下であることは理解してはいたが実際にそれを意識するようなことは殆ど皆無に等しく(何せ研究にばかり没頭しているし、宰相閣下のお呼び出しを受けるのは目下そこにいる変人一人である)、心臓に毛が生えているわけではない善良な一般市民である彼等は恐縮しきりで鯱張って直立不動で応対した。

そこでありがたくも退去の許し、ではなくご下命を受けて我先にと喜々としてランスロットを収納しているドックよりかけだしていく彼等は実のところそれだけで世間一般よりかけ離れており、皇子の微笑を誘ったのは秘密である。

さて一方そんなやりとりがあったことなど微塵も気付いていないロイドは金属に押しつけ続け熱を奪われて冷え切った額をようやく離して、遙か頭上にある凛々しい面貌へ憂いの眼差しを注ぐ。

「お前が私意外をそんなに熱心に見つめるなんてなんだか妬けるね、ロイド」

本人にしてみれば唐突に響いた最愛の君の美声に、首がもげそうな勢いでぐりんと振り向いた科学者はその麗姿を認めて歓声を上げた。

「シュナイゼル!」

喜色満面に両手を広げて駆け寄ってくる彼はそのまま幾分どころではない背丈の差を物ともせず、むしろ逆手にとって至高の君に抱きついた。ブリタニア宰相の両肩に腕をひっかけて殆ど垂れ下がるようにべたりと久しぶりに合う情人に懐く男はさて世間体という物を考えているのかいないのか。やはり人払いをしていて正解だったと困った愛人の旋毛を見下ろしつつ、皇子殿下はその愚痴に耳を傾ける。

「聞いてよぉシュナイゼル!せっかく機体が完成したっていうのにさぁ、肝心のパーツがないんだよぉ!!なんってかわいそうなんだろぉ僕のランスロット!!」

大仰に悲劇のヒロインもかくやといわんばかりに嘆く男はまぁ、なんというか何ともみっともない。しかしそれすらも愛しいと感じる己はだいぶキているんじゃないかなと至高の芸術品に囲まれて成長した身上を顧みて僅かに懊悩するシュナイゼルは、しかし心の赴くままに自身の胸元でふわふわと揺れる頭髪を撫でるのだった。

 

つづく